779-出会い力

東京でのセミナーを終え、福岡へ戻るため羽田空港へ向かった。

最終便までの2時間、喫茶店で暇を潰していると携帯メールが着信した。


「うーっす。元気かあ。今日メシいかね?」

 送信者のアドレスは登録がなくアドレスだけが剥き身で表示されている。

 文面どおりに読めば男であるが、若い女性のようにもとれる。
 アドレスには、「ono」と名前らしい英語がならんでいる。

 誰だ?見覚えもないアドレスだ。
 詮索をやめ、正直に尋ねることにした。

「すいません。どちら様ですか?」短文で返信する。

 30秒もしないでメールが戻ってくる
「どうも雑誌Fの小野です」

 なるほど、あのとき取材でお世話になった記者か。
「どうも岡崎太郎です。どうしました?」と戻す。
 すると。

「あれっ、友達にメールしたつもりが、どうも登録を間違えてたようです。
実は博多に来てましてね」

「そうですか、僕は今羽田でこれから博多ですよ」

「じゃあ友達に連絡取れなければ、久しぶりに飲みますか?
私の携帯は090XXXXXX00XXです。連絡ください」

「了解。中州ですよね」

「そうです」

 異様に早いメールの応酬のあと、僕はようやく勘違いに気がついた。
雑誌Fの同類の雑誌(これもF)からは取材を受けたことはあるが、彼の
所属する雑誌Fからは受けていない。
パソコンのDBで検索するが「小野」という記者のデータはない。

 誰だ?
 新手の出会い系か?
 新手の詐欺か?
 まぁ直接会えば秘密は解けるであろう。

 福岡空港に到着しタクシーに乗り込み携帯の電源を入れ、謎の男に電話を
する。「どうも、今空港です。どちらに行けばいいですか?」

「西中洲のバーXXXXにいます」
「そうですか?じゃあ近くまで行ってわからなければ、また電話しますね」

 行き先を細かく運転手に伝え直行する。

 その店は西中洲のちょうどヘソともいえる真ん中にある4階建ての雑居
ビル2階の一番奥まったところにあった。

 エレベータはない。廊下は暗く扉に貼られた看板は簡素でお世辞にも洒落
てもいない。扉を開けると元スナックの店舗を改装せずにバーを営業してい
るという風情だ。客らしい男が1人だけカウンターにいる。

 男が振り返り「岡崎さん?」と名前を呼んだ。
 僕はペコリと礼をして応え名刺を交換した。

 確かに「雑誌F」の名刺である。

 まったく会った覚えのない男だ。
「僕達って会ってないですよね」
「はぁ私も今ちょうどその事を考えていたとこなんです」

 お互いキャラが濃く一度会えば忘れるはずはない。

「僕の携帯のアドレスって何処で手に入れたんでしょうね」
「わかりません。変な出会いですが、まぁおもしろいではないですか!」

 確かに間違いメールからではあるが、東京と福岡の人間が、なぜか博多に
いる偶然。また不用意に会おうという積極性にとんだ性格。さまざまな要因
が重ならなければ会うことはない。

 話題は、海外放浪からドキュメンタリー論から新興宗教そして戦争までと
広がっていった。

 なにせ彼のフィールドは風俗から戦争までだそうで、イラクにアフガンへ
と何度も足を運んだそうだ。中でもイラク開戦時にそのイラクにいたという
話には興奮した。

 一杯飲んで帰るつもりが、結局バーをはしごして3時まで飲んだ。

 彼の名前は「小野一光」フリーのジャーナリストだ。著書には「完全犯罪
マニュアル」や「アフガン危機一髪」他風俗に関しての著書が6冊ある。

 結局「メルアドはどこから?」という原因はわからなかった。
共通の知人もいるのだが、僕のメルアドだけが1人歩きすることはない。
アドレスの前が一緒で後のドメインが、ドコモではなく、auまたはソフト
バンクなのか?(翌日テストしたが「宛先なし」で戻ってきた)

 それにしても濃い夜だった。

 

  2008年11月26日   岡崎 太郎